やわらかいパタンランゲージ

知識デザイン企業(紺野 登 著)

★中埜さん寄稿★

「アレグザンダー読書会」というのがある。
(株式会社豆蔵というソフトプログラムの会社の支援を受けている)

アレグザンダーの著作を読み合わせて討論する会なのだが、そこでこの本「知識デザイン企業」(紺野登著、日本経済新聞出版社2008)を知った。

アレグザンダーの主張する「無名の質」に多くのページがさかれ、パタンランゲージの紹介も出ているビジネスブックだという。
早速買って読んでみた。

「知識デザイン」とは著者(著者は早大建築学科出身経営情報博士)の造語だが、著者は、この言葉を「知識創造とデザインの融合」と定義している。ちょっと強引に言わせてもらうと、これはソフトとハードの融合をプロセス管理によって可能にしようという問題提起の著作なのだ。

デザインが、ソフトとハードの一体化を目指す行為であることは、かなりの人が認めている。しかし、それを可能にするには様々な工夫が必要で、その方法のひとつとして、この本の中では「パタンランゲージ」が紹介されているわけだ。

著者の提案のキーポイントは「無名の質」にある。

アレグザンダーの「無名の質」を作り出すことは、全く新しい知識創造プロセスを条件とするからだ。その質を作り出して売っていく企業モデルとして「アートカンパニー」という企業が提起され、組織経営にまでこの本では話が及ぶ。

この「無名の質」とは何だろうか?

説明のために「時を超える建設の道」から長い文が引用されている。
実は、アレグザンダーの新著「ネイチャーオブオーダー(The Nature of Order)」の目的のひとつが、この質の定義なのだ。アレグザンダーの定義はあとにゆずり、著者のいい分を聞こう。

著者は[文化的(アート)知識資産]のイノベーションによって[無名の質]を生み出せるという。これが[アートカンパニー]という会社名の由来にもなっている。[無名の質]は、文化的知識遺産の中に存在し、特定の方法(パタンランゲージ)によって「イノベーションデザイン」として引き出すことができ、形として表現できるというのだ。

私も「無名の質」は文化的遺産の伝統の中に、確かに存在すると思っている。例えば、昔から「本歌取り」といって、俳句から短歌、短歌から俳句の有名な作句法がある。これは、本歌のエッセンスを守りながら、全く新しい句をつくること。寺山修司の短歌はそうだった。つまり、作句の世界では、句にはなんらかの名づける事の出来ないエッセンスが存在し、それを崩さないように再生し、新しい短歌をつくりだすことが創造性なのだ。

ここにヒントがある。これからの会社は文化のエッセンスを継承し、創造的に豊かな質を持った商品を生み出すことこそ、今必要とされるのだと。もちろん、「無名の質」はそう単純ではないが、[アートカンパニー]は無名の質の追求によって、「一人の人間の持つ、潜在的な力を解放する組織のあり方」を指向するモデルとなると著者は断言する。 

これまで、建築界では「無名の質」は徹底的に無視されてきた。パタンランゲージの中での勝手な言い分とすることで、みんな見て見ぬふりができた。注目されても、長続きしなかった。

この著者のように、新しい会社経営のモデルとして[無名の質]を取り上げ、アップル社のiPodを例にあげる手軽さは嫌えない。この軽いノリで、「アート」や[パタンランゲージ]を主張するのが今的なのだろうか?

嬉しいような、くすぐったさがある。

知識デザイン企業

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author: 中埜博