ダイアローグ(デヴィッド・ボーム著)
「対立から共生へ、議論から対話へ」というサブタイトルがついている。
対立から共生は分かるが、議論と対話って同じことじゃないの?って反論したくなる。そこが、この本のみそ。
多くのコミュニケーションの本が出ているが、この本ほど根本的なコミュニケーションの問題を問うている本はないと思う。じつは、この本に出てくる「対話」を、「ワークショップ」と訳すと、とても理解しやすくなるのだ。
著者は、量子物理学の異端児と呼ばれた事がある。
「量子場」という、目に見えず、現代の科学では実証できそうになかった量子を動かす力のポテンシャルの存在を主張した物理学者だったからだ。しかも、いわゆる「赤がり」という、ヒステリックなアメリカを吹き荒れた社会現象のなかで、教職の席を追われるという悲劇の過去をもつ人なのだ。
さて、私がこの本を知るようになったのは、クリストファー・アレグザンダーの新著「ネイチャーオブオーダー(The Nature of Order)」のなかで、アレグザンダーの新理論である「中心性」「全体性」の場の理論が、物理学の量子論の発展と一致すると述べている部分があったからだ。その裏付けの物理学者がこのボームその人だったのだ。
なんだ、異端者同士の一致かと片付けてはいけない。
私にとっては、この物理学者が、なんで「対話」(ワークショップ)の本を書いているのかがまず不思議だった。ボームは、「議論」とは問題の部分化したコミュニケーションとし、「対話」は、部分から全体を見通すコミュニケーションと定義する。つまり、「対話」は、言葉や思考のみに頼らないコミュニケーションと言っているのだ。
これはワークショップの事じゃないか。
その通り、この本はワークショップの理論的説明となっている。さらに、部分から全体を見通すということは、参加者全員の「共有感覚」を求めることに発展する。それは、みずからの「思考」が事実であるかまで疑う行為を含んでいるのだ。じつに根本的なコミュニケーションの問題提起になっている。
この本「ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ」(デヴィッド・ボーム 英治出版 2007)は物理哲学者から見た世界観がその土台となっている。そして、この「対話」(ワークショップ)こそ、この変化の時代にふさわしい「ボトムアップ」のコミュニケーションの方法だと提唱している訳だ。
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