やわらかいパタンランゲージ

沢田マンション超一級資料(加賀谷 哲郎 著)

★中埜さん寄稿★

沢田マンションってご存知?
世界一大きなセルフビルドによるマンションである。

高知県高知市にある、地下1階地上6階建ての賃貸集合住宅、といってもピンとはこないだろう。ガウディの未完のサグラダファミリア並みの破格建築なのだ。

名建築というよりは迷建築、不思議、奇怪建築と言われてしまうかもしれない。しかし、この場で私は、「パタンランゲージによるマンションは、このマンションと同じ質をめざすべきだ」と声を大にして言いたい。

とにかく、沢田マンションは、普通のマンションとは異なる。

まずは、自動車が5階まで上がって行ける自走式ランプがついているのに驚かされる。個々の独立した家屋が、6階建ての人工土地に乗せられて、バウムクーヘンのように多層積載されていると言ったほうがいいかもしれない。

しかも、この複雑なマンションが専門業者によってではなく、オーナーであり、大家さんである沢田夫妻の手で30年以上もの時間をかけて作りあげられた、全く正真正銘「セルフビルドの建築」なのである。この名物マンションの、はじめての建築的考察の著作が、この「沢田マンション超一級資料―世界最強のセルフビルド建築探訪」(加賀谷哲郎著、築地書館2007)なのだ。

この建物のどこが、パタンランゲージの考え方に一番強く相関するところだろう?

まずは、マンションの形がいい。直感的にこの建物は、本に載る多くの写真からだけ見ていても、とにかくハッピーな気持ちが伝わる。連続するバルコニー、緑の多いテラス、屋上の畑、池、各階ごとの表情の違い、無数の柱・・。この本の著者は、このマンションの持つ楽しさを愛して、修士論文として調査し、それを基にこの本を書いたそうだ。

しかし、詳細部の混乱、設備の乱雑さ、屋上の工事中のように見えるクレーンなどは、ちょっと見方を変えると、やぼくて、しろうと仕事で、専門業者からすれば、あきれかえる代物であることも事実である。確かに、近頃のマンションのように、すっきりしゃれてはいない。ごちゃごちゃして汚いところもある。玄関もない、設備配置もきれいに処理されてはいない。

だが、現代のマンションの持っていないものがここには存在する。それがあるからこそ、その他の欠点はみな無視できるのだ。それは、「生命」といったらよいか、沢田マンションを息づかせ、来た人を魅了する「生き生きした生命」のような存在がそこにあるのだ。

ここで言う「生命」については、パタンランゲージの著者、アレグザンダーの近著「ネイチャーオブオーダー(The Nature of Order)」の第1巻に詳細に言及されている。

彼の「生命」の定義は、生物学的定義とは異なる。わたくしの勝手な解釈を入れて述べさせてもらうと、「中心」とその存在の「場」との相互作用との共存性から生まれる形のもつ性質–といったかなり難解なもの。これは、パタンランゲージの目標とする性能が、「名付けられぬ質」とされているが(「時を超えた建設の道」)、その質のことである。

話が難しくなってきてしまったが、要するに、「パタンランゲージ」の生み出そうとしている目的の性能を、この通称「沢マン」は持っているということが言いたいのだ。

なぜか?なぜ、このセルフビルドのマンションは、「パタンランゲージ」と同様の質を生み出すことになったのだろうか?

この著作第2章に書かれている、沢マンを読み解く13のキーワードに、その答えのひとつは出ている。

それは、沢マンをつくりだすプロセスの説明だ。セルフビルドで、沢田夫妻の思いをマンションに実現して行くためには、どうしてもたどらなければならなかった必然的な建設プロセスに、その秘密がある。このプロセスは、現代の建築が失ってしまった物だ。この点は大いにみんなで、これから論議していくべきだろう。

このマンションの良いところは何で、どうすれば沢マンの良いところを再生して、現代のマンションの作り方に役立たせることができるだろうか?
それは、沢マンのみに許された特殊な希望にすぎないのだろうか?

この問いかけが、名建築「沢田マンション」からの[言葉なきメッセージ]のような気がするのは、私だけだろうか。

沢田マンション超一級資料―世界最強のセルフビルド建築探訪

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author: 中埜博